はじめに
玉掛けワイヤーの編み方(アイスプライス)は、林業や建設現場などで欠かせない専門技術です。正しい編み方を習得することで、安全性の確保はもちろん、コスト削減にもつながります。市販の既製品を購入するだけでなく、自分でアイ加工を施すことができれば、雨の日や現場に入れない時間を有効活用することも可能です。
本記事では、玉掛けワイヤーの編み方の基礎から応用まで、アイスプライスの種類・手順・法規制の観点まで幅広く解説します。初心者の方にもわかりやすいよう、各工程を丁寧に説明していきますので、ぜひ参考にしてください。
アイスプライスの基礎知識

アイスプライスとは、ワイヤーロープの端に輪(アイ)を手作業で編み込む技術です。集材作業や玉掛け作業において、このアイ部分がフックやシャックルに掛けられるため、強度と信頼性が求められます。まずは基本的な知識を整理しましょう。
使用するワイヤーロープの種類と準備
玉掛け作業での標準仕様として広く使われているのは、9mmの6×24ワイヤーロープです。「6×24」とは、6本のストランドがそれぞれ24本の素線で構成されていることを示しており、柔軟性と強度のバランスに優れています。集材作業をはじめとする様々な現場で採用されているのは、このバランスの良さが理由のひとつです。
ワイヤーロープをカットする際は、使用したい長さに対して160cm程度を加えた長さでカットすることが重要です。この余分な長さは、ストランドを解いてアイを編み込む作業に必要となります。カット後はワイヤーの端がほつれないよう、テープや溶接で固定しておくと作業がしやすくなります。
ストランドの分け方とアイの形成
ワイヤーロープは6本のストランドで構成されていますが、アイスプライスを行う際はこれを3本ずつに分けます。一方の3本は芯を残したまま約80cm解き、もう一方の3本は芯のない状態にします。芯が残っている側を下にしてアイ(輪っか)を作るのが基本的な手順です。
アイの大きさは約20cm程度に形成することが推奨されています。アイが小さすぎると作業中にフックが掛けにくくなり、大きすぎると強度が低下する可能性があります。現場の用途に合わせた適切なサイズのアイを形成することが、安全な玉掛け作業につながります。
アイスプライスに必要な道具
アイスプライスを行うにあたって最も重要な道具は「シノ」と呼ばれる先の尖った工具です。シノはストランドとストランドの隙間を広げ、新たなストランドを差し込む際に使用します。シノの溝を使ってストランドを手元から先端方向へ通すことで、均一で締まりのある編み込みが実現します。
また、金槌(ハンマー)も仕上げに欠かせない道具です。編み込みが完了した後、付け根から先端方向に向かって叩くことで、ストランド同士の隙間を詰め、全体の締まりを良くします。道具の正しい使い方を習得することが、高品質なアイスプライス完成への近道です。
- シノ(先の尖った工具)
- 金槌(ハンマー)
- ワイヤーカッター
- 保護手袋
- テープまたはワイヤーの端末処理材
アイスプライスの編み方の種類

アイスプライスには主に3種類の編み方があり、それぞれ特徴や難易度が異なります。用途や求められる強度、法規上の要件に応じて適切な編み方を選択することが重要です。ここでは各編み方の特徴を詳しく解説します。
巻差し(まきざし)
巻差しは、ストランドをワイヤーロープの「より方向」に沿って編み込む方法です。より方向に沿って編むため、ストランドがロープに馴染みやすく、比較的習得しやすい技術とされています。初心者が最初に挑戦するアイスプライスとして推奨されることが多い編み方です。
ただし、巻差しにはロープが回転した場合に加工部分が抜けやすいという弱点があります。このため、回転荷重が加わる可能性がある用途や、強度を最優先する場面では不向きな場合があります。作業環境や用途をよく見極めた上で選択することが大切です。
かご差し(かござし)
かご差しは、ストランドをワイヤーロープの「より方向と反対方向」に編み込む高度な技術です。編み方のルールは「1越し2差し」で、1本のストランドを越えてから2本目のストランドの下にシノを差し込むという工程を繰り返します。フレミッシュアイを作成した後、ストランド6本を3本ずつ順番に編み込んでいきます。
かご差しは全3種類の中で最も強度が高く、ロープが回転しても加工部分が抜けにくいという大きな利点があります。その反面、技術の習得には時間と経験が必要であり、ベテランの職人でも丁寧に工程を踏まなければなりません。安全性と信頼性を最優先する現場では、かご差しが選ばれることが多いです。
| 編み方 | より方向 | 難易度 | 強度 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 巻差し | より方向に沿う | 低い(初心者向き) | 中程度 | 習得しやすいが回転時に抜けやすい |
| かご差し | より方向と逆 | 高い(上級者向き) | 最も高い | 回転しても抜けにくく最高強度 |
| 半差し | 両方を組み合わせ | 中程度 | 高い | 法規で玉掛け用途に必須 |
半差し(はんざし)と法規上の必要性
半差しは、法規で玉掛け用途に必須とされている編み方です。クレーン等安全規則第219条に基づき、玉掛けワイヤーはストランドを3回または4回編み込んだ後、ストランドを半分に切り落としてから、さらに2回以上(最初に4回の場合は1回)編み込むという二段階の加工プロセスが求められています。
この段階的な強度配分により、応力集中を避けることができます。編み込みの終わりが先細り状になることで、負荷を均等に分散させ、全体的な耐久性を向上させることが可能です。また、切断した際に2ヵ所のひげが現れることが半差しの特徴であり、これが玉掛けワイヤーと台付けワイヤーを見分ける重要なポイントとなっています。
アイスプライスの手順と仕上げ

ここでは、実際のアイスプライス作業の具体的な手順を解説します。基本的な流れを把握し、各工程での注意点を理解することで、品質の高い編み込み加工が実現できます。仕上げ工程まで丁寧に行うことが、安全で長持ちする玉掛けワイヤーを作るための鍵です。
編み込みの基本工程
編み込みを始める際は、シノを使って青いストランド2本を救いながら差し込みます。①のストランドから始め、黄矢印を越えて赤矢印の下にシノを差し、シノの溝を使って手元から先端に向けてストランドを通します。2本目以降は、前に編んだストランドの左隣に出るようにずらして差し込むことが重要なポイントです。
片側3本が編めたら裏返して残りの3本を編みます。これで1周分が完了します。同じ要領でさらに2周編み、合計3周の編み込みを行います。両サイドから6本ずつストランドが伸びた状態になるまで、この刺す工程を繰り返すことが基本的な編み込みの完成形です。各工程での張力管理とストランドの配置に注意を払うことで、均一で強固な編み込みが実現します。
半差し工程の詳細
3周の基本編み込みが完了したら、4周目からは半差し工程に入ります。この工程では、ストランドを内層線と外層線に分け、外層線だけをさらに2周編み込みます。この作業により、編み込みの終端部分が自然と先細りの形状になり、荷重がかかった際の応力集中を効果的に防ぐことができます。
半差し工程は、玉掛けワイヤーの耐久性と安全性を大きく左右する重要な工程です。外層線だけを丁寧に編み込むことで、力が段階的に分散され、急激な断線リスクを低減します。この工程を省略すると法規違反になるだけでなく、現場での重大事故につながる恐れがあるため、必ず実施してください。
仕上げとカット・整形
すべての編み込みが完了したら、伸びているストランドを1cm程度余すようにカットします。余分なストランドを根元から完全に切ってしまうと、編み込み部分がほつれる原因になるため、わずかに残すことが大切です。カット後は、余ったストランドを引っ張って全体をしっかりと締め直します。
最終工程では、金槌(ハンマー)を使って付け根から先端方向に向かって編み込み部分を叩き、整形します。この作業により、ストランド間の隙間が詰まり、全体の締まりが良くなります。均一に叩くことで仕上がりが美しくなるだけでなく、強度の均一化にも効果があります。完成した玉掛けワイヤーは、使用前に必ず目視で確認を行いましょう。
- ストランドを1cm余してカットする
- カット後に全体を引っ張って締め直す
- ハンマーで付け根から先端に向かって叩く
- 目視で編み込みの均一性を確認する
- 使用前に荷重テストを行うことを推奨
まとめ
玉掛けワイヤーのアイスプライスは、正しい知識と技術があれば自分で加工できる実用的なスキルです。巻差し・かご差し・半差しの3種類の編み方を理解し、法規に基づいた半差し加工を確実に行うことで、安全性の高い玉掛けワイヤーを作ることができます。雨天や待機時間などを活用してコストを削減しながら、現場の安全を守る技術として、ぜひ習得を目指してください。
安全な作業のために、クレーン等安全規則を遵守した加工方法を選択することを忘れずに。編み込みの品質が現場の安全に直結することを常に意識し、丁寧な作業を心がけましょう。
よくある質問
アイスプライスの初心者向けの編み方は何ですか?
巻差しが初心者向けの編み方として推奨されています。ストランドをワイヤーロープのより方向に沿って編み込むため、ロープに馴染みやすく習得しやすい特徴があります。ただし回転荷重がある場合には不向きなため、用途に応じて判断する必要があります。
ワイヤーロープをカットする際の正確な長さはどのくらいですか?
使用したい長さに対して160cm程度を加えた長さでカットしてください。この余分な長さはストランドを解いてアイを編み込む作業に必要となるため、最初の段階で正確にカットすることが重要です。
玉掛けワイヤーに法規で必須とされている編み方は何ですか?
半差しが法規で玉掛け用途に必須とされている編み方です。クレーン等安全規則第219条に基づき、ストランドを3回または4回編み込んだ後、ストランドを半分に切り落としてからさらに2回以上編み込むという二段階のプロセスが求められています。
アイスプライス作業で最も重要な道具は何ですか?
シノという先の尖った工具が最も重要です。ストランドとストランドの隙間を広げて新たなストランドを差し込む際に使用し、シノの溝を使ってストランドを通すことで均一で締まりのある編み込みが実現します。

